日本型セールスレップへの期待(講演テープ全文)

藤和彦氏(内閣官房、前経済産業省関東経済局産業企画部長)
2003年11月1日
セールスレップ育成研修セミナー第2回

[自己紹介:現在の所属など]

 ただいまご紹介いただきました藤でございます。私、実は内閣府で内閣官房のほうの内閣情報調査室というところに今、勤務しておりまして、内閣情報調査室といいますと、多分、この中でゴルゴ13とか、ああいう漫画を読まれた方はですね、内調、内調と出てくるわけでございますが。私も、まだ来て1カ月でございますけれども、若葉マークのいわゆる日本における情報部員というか、JCINの一員ということで、経済部ということでございますので、そんな諜報活動するということはないわけでございますけれども、そうしたところに勤務しております。

 20年目にして、初めて私の任命権者は総理大臣ということになりまして、小泉純一郎首相が、私の上司になりまして、そういう意味では内閣情報調査室長というのは43年の経済庁のキャリアの方なんですが、その人にレポートをして、その人が週2回、必ず総理に対してレポートをしておりますから、そのときにぜひ一度、中小企業を含めて、こういうセールスレップの話も近々、挙げてみたいなと思っているわけでございます。きょうは講演というよりも、むしろ皆様のこの元気な姿を見て、ぜひ、この取材活動の一環で、レポートの題材とさせていただきたいと思ったわけでございます。

 今度、9日の日に総選挙がありますので、小泉さんが再選するかどうかというのはまだわからないわけでございますが、再選した暁には、もともとこの小泉さんという方は、いろいろ聞きますと、世の中の明るいことにしか関心を持たないという方でございまして。例えば中小企業の話であれば、元気な中小企業のほうに行って、「お、頑張ってるな」とかですね。最近は回転寿司のお店に行って、「これは民の構造改革だ」と言って、パフォーマンスするのがお好きでございますから。一般的に中小企業の現状は厳しいというレポートをしても、全然、クライアントである小泉さんは話を聞いてくれないものです。それで、ぜひとも、そういう厳しい状況の中にあって、新しい動き、将来の大きな発展につながるような兆しになるような話を、私はできる限り、していこうと考えています。これまで担当局でお世話になりましたし、中小企業庁、それから関東経済産業局でも部長というのをやってまいりましたので、そういうところをこれまでの人とは違った形で、ぜひ総理の耳に入れていきたい。一応、内閣情報調査室は総理のお庭番だと言われておりますので、そういうことを小耳に入れることによって、少しでもこういう動きが、埼玉県に限らず、日本全体に広がっていくといいのではないかなと思ったわけでございます。

[セールスレップとの接点]

 先週も実は京都のほうに行って話をしてきたんですが、やはり関西のほうでも、セールスレップというものについては非常に関心があるということでございます。

 日本では、非常に景気が悪くなってから、アメリカから、みそもくそも含めて、いろいろな概念が入ってきているわけでございます。特に金融の世界もありとあらゆる概念が入ってきている割には、残念ながら日本には流通についてアメリカのこういうシステムがほとんど入ってこなかった。何でなんだろうかというところがあるわけでございます。セールスレップ、マニュファクチャラーズ・レップ、多分、私もこの言葉を知ってからまだ1年半ぐらいしかならないわけでございますけれども、私がそのころ、知って、レップ、レップといったときに、ほとんどの方はご存じなかったということです。何でなんだろうか。多分、ちょっとこれは私が後でお話しする、きょうのメインのテーマになるわけでございますが、日本というのは金融以上に実は流通のところが非常に前近代的で、そこの部分を何とかしないと、結局、日本経済の礎を成している中小企業の再生はあり得ないのではないかというふうに思うわけでございまして。そういう意味でぜひとも、きょうお集まりの方々にぜひとも頑張っていただいて、日本の中小企業、ひいては日本経済を活性化していただきたいというのがきょうの趣旨でございます。

 それで、拝見いたしましたら、きょう、繊維製品の販売拡大のために、ぜひ勉強させていただきたいという方もおられます。私どもとも同じ歳の方もいらっしゃるわけでございますが、実は私、このセールスレップというものを初めて私が勉強したのは、実は繊維の世界でございます。小塩理事長もご面識ありますけれども、大阪にセールスレップネットワークという株式会社があって、本にも書かせていただきましたけれども、坂本という男から私は初めてレップということを教えていただきました。

 そもそもレップって何なんですかと。全くわからなかったわけでございますが、いわゆる物を売るプロというか、営業のプロ、しかも独立型の営業のプロという話があって、こういうやり方をしないと、なかなか景気なんてよくなりませんよという話をされて、最初は半信半疑だったわけでございますけれども、よくよく考えていきますと、やっぱり本当にこれって必要なんだなというふうに思うわけでございます。

[中小企業の悲鳴]

 現下の中小企業の情勢をお話しいたしますと、一言で言いますと、いわゆる3年とか4年ぐらい前に中小企業でも勝ち組、負け組があるという話を言われました。私ども、関東経済局というのは、できるだけ勝ち組の中小企業さんのネットワークをつくっていこうということで、この3年とか4年、いわゆる産業クラスター計画と言って、いろいろなネットワークをつくってまいりました。その方たちからは、かなり頻繁に意見交換とか景況感とかということを聞くわけでございますが、その中、最近、非常に気になるコメントというか、つぶやきが出てまいりました。一言で言いますと、勝ち組中小企業中にあって、今、非常に皆様が気にされているのは、「利益なき繁忙感」が続いているということでございます。

 昨年末あたりは少し、ちょっと景気がおかしくなったんですが、今年に入ってからまた少し実際、動きが出てまいりました。先週末に出ました工業生産指数でも生産面でも3%増ということで、物の流れは出てまいりました。
ただ、残念ながら、中小企業の方にとってみると、単価が上がらないどころか、むしろ単価をどんどん下げろという下げ圧力が続いております。そうなりますと、5年前に比べて単価が半分になってしまった。3年前に比べて単価が3分の2ですと。もう損益分岐点ぎりぎりまで来てしまっていますと。この後、どうなっちゃうんでしょうねという声が聞こえてまいりまして、「藤さん、最近、おれのとこっていうのは、勝ち組だと思っていたんだけど、どうも気がつかないうちに負け組に入ってきたんじゃないかな」というつぶやきというか、悲鳴が出てくるわけでございます。

 ですから、私ども、これまで産業クラスター計画というのは産学連携ということで、技術力を磨いて、何とか中小企業の方たちに、この不況を乗り越えてもらおうということでやってまいりました。産学連携、中小企業に対する技術開発の支援。困れば、技術で何とかしようということでやってまいりました。ただ、こういう状況を見ておりますと、どうしても物をつくる部分だけの応援をしても、もう多分、答えが出ないだろうなと思っているわけです。

 私も役人をやって、もう20年目でございますけれども、はっきり言って役人、一般的な役人の発想で言いますと、物をつくるところは応援しても、物を売る部分というのは、これはもうビジネスの話ですよねと。はっきり言って役人なんて世間知らずですから、物を売るなんて、そんなことに手を出したら、とんでもないことになるということで逃げておりました。ただ、こういう状況でいくらいいものをつくたって、結果が出てこないと。入り口ばっかり、いい技術を詰め込んでも、出口の部分が詰まっていますと、なかなか成果がすぐには出てこないということを考えますと、今こそ物を売るプロということを考えなきゃいけないんじゃないかなと思うわけでございます。

[日本には"目利き"がいない]

 私どもは、産業クラスター計画ということで、中小企業の販路開拓支援事業ということを3年ぐらい、やってまいりました。どういうことをやってきたかといいますと、いわゆる専門商社の方たちに中小企業の製品をご紹介して、何とかお客様に見せてくださいというマッチング事業です。ただ、残念ながら、140件とか150件をお願いいたしまして、実際、ビジネスにつながったのは1件とか2件でございます。12年、13年、14年、15年でやってまいりましたが、最近は商社の方が面談すらしていただけなくなってしまったという状況にあるわけでございます。やはり、何となれば、ご案内だと思いますけれども、専門商社の方々に会っても、こういう厳しいデフレの中にあって、ロット商売、価格商売というのが前提でございます。ロットの価格ということを言われれば、日本の中小企業というのは、ほとんどの場合が逆に合わないということでございまして、残念ながら、ここに先ほど書いてありました、ディストリビューターと先ほどのレップというのがあったわけでございますけれども、日本の流通関係の方というのは、やや独断と偏見で申し上げますと、ディストリビューターの方はいらっしゃっても、実はレップの方というのはもういないんじゃないかというのが私の実は感想でございます。
多分、戦前にはいらっしゃったと思います。ただ、戦後、高度成長期を通じて、とにかく経済のパイプが大きくなる。とにかく物をいっぱい流せばいい。その中にあって、流通の中で在庫を管理し、それから、あと与信機能を補てんすることによって、流通の方たちは実は生きておられたわけでございます。

 残念ながら、1985年を契機にバブルになり、その後、バブル以降の経済になっているわけでございますが、日本の人件費が世界一高くなってきて、いいものをより安くというやり方では、全然、もう世の中がうまくいかなくなってきている状況にあって、いいものを高く売ろうといった場合に、はっきり言って既存のシステムが全部、災いをしているというか、そういう状況になっているわけでございます。ですから、私、いろいろなところで、実は残念ながら、流通分野について言えば日本は成熟していないんだよねという話をしています。

 この流通の中には、実は大手企業さんも入っています。大手メーカーさんも入っています。決して問屋さんとか商社だけではありません。大手メーカーさんも入っています。特に最近、大手メーカーさんの目利きのなさというのは、目を覆うばかりだと思いますが、そういう意味で目利きがいないのに、どうやったら自分たちがつくった製品を高く売っていくんだということで、これは不可能だと思います。
 さらにもっと言ってしまえば、日本のマーケットというのは、先進国で一番、物が売れにくいと思います。何となれば、これも誤解を恐れずに申し上げますと、日本というのは階級社会じゃないからです。実質、階級化が進んでおりますけれども、階級社会がないという前提、そういう現実で来ているわけでございますので、消費者の行動が一番、読みにくいわけでございます。ですから、よく冗談で言っていますけれども、日本の消費者というのは100万円もするようなエルメスのケリーのかばんを買ったついでに、おばさまたちが帰りに100円ショップのダイソーに行って小物をそろえてくるとか、ベンツに乗って平気でカラオケに行っちゃうとか、そういう消費者がいる中にあって、多分、日本の大企業というのは、ものすごくマーケティングに困っていると思います。

 ですから、結果的に日本の大企業さんというのは、何が売れるかわからない。消費者が怖くてしょうがない。だから、最後は価格しかない。いくら偉そうにマーケティング部という看板を掲げていても、結局、価格しかないから、その分、弱い者いじめと言ったら怒られますけれども、大企業さんに対してしか物が売れないと、中小メーカーに対して価格を低くしてほしくはないということでございます。

 ですから、一時、日本のデフレというのは中国のせいだという話をした方がいらっしゃいます。私、これはうそだと思っています。それははっきり言って敵は本能寺で、敵は日本の大企業です。大企業さんがこれまで大量生産、大量販売でやってこられて、それが変わらなければいけないと言われながらも、今、足元を見れば、もっともっとそうなっているわけですね。ですから、大手メーカーさんがいろいろなデザイナーと提携をして、いいものをつくりました、営業部隊がロットを、10億とか100億というロットの場をつくりますから、全部、製品が死んじゃっているという状況があるわけでございます。ですから、私は日本の中小企業の方に対して、本当に同じ目線で物を売ることを考えてくれるプロの方を見つけないことには、決してもう日本の中小企業の再生はあり得ないと思っています。

[中小企業支援のあり方]

 もっと怖いのは、よく大企業は選別して日本の中小企業はおかしくなるという言い方をしていましたが、私、この間、『日経ビジネス』で『百万分の一の歯車!』という本を書かれた樹研工業の松浦さんのインタビュー記事を見て、はっと思いました。彼も本の中で言っていますけれども、日本の大企業というのは本当に価値を認めてくれてお金を落としてくれないと。これからもうヨーロッパとかアジアの企業とやっていくぞという話を本の中で書かれていますが、実際に彼はインタビューの中で、これはうちだけじゃないと。本当に技術を持っている中小企業というのは、もう日本企業を相手にしないで、アメリカ、ヨーロッパ、さらにはアジアにいい製品をどんどん出していくよという話をしていました。いわゆる逆選別が起こるという話をしていたわけでございます。

 ですから、そういう中にあって、政府の一員として、こういうことを言うのは非常にやや天つば発言になるわけでございますけれども、ことしの4月にりそな銀行に公的資金が入って以来、あんまりわけのわからない形で株が急に上がり、株が上がることによって、いわゆる経営者、大企業の経営者のマインドがよくなって、日銀短観が景気判断が上がる。それによって政府の景気の判断もよくなっていくということでございますが、こういう話をしますと、中小企業、仲のいい経営者からは、「藤さん、この景気判断って、どこの国の判断なの?」と。「どうも、よその国の気がしたしょうがない」という声が聞こえてくるわけでございます。
私どももある意味で役人ですから、本当に現場にいるわけではありませんが、そういう話を聞きますと、何となく今の日本の大企業さんの収支がよくなったというのは数字合わせでございまして、いわゆる社内のリストラ、さらには雇用をいかにどんどん、どんどん、単価を下げることによって、いわゆる自分たちの足元を削ることによって、短期的な利益を出しているんじゃないかという思いにつきまして、こんな状況で本当にいいんだろうかというふうに私なんかは思っているわけでございます。

 そういう意味で、私はセールスレップに限らず、日本の中小企業、私ども、産業クラスター計画をつくるときには、一つのクライテリアとしてはやる気のある中小企業を応援するという言い方をしてまいりました。ただ、今、反省を含めて申し上げますと、やる気のある中小企業というのは、実は全然、クライテリアになっていないんですね。非常に皮肉な言い方をすれば、やる気のない中小企業というのは多分、ないと思うんです。
やる気も主観的に見れば、皆様、あるんですが、客観的に見てやる気があるかどうかということだと思いまして、多分、そんなやり方ではまだまだ、我々、関東経済局、通産省、ほかの役所に比べれば、少し前向きなことをやっているということで、表向きは評価されているわけでございますが、まだまだ、だめではないかと。

[中小企業もマーケティングマインドを]

 私ははっきり言って、もうこれから中小企業を支援する対象というのは、その会社の規模は関係ありません。労使も関係ありません。むしろ経営者なり経営の幹部が、いわゆるマーケティングマインドを持っていらっしゃる方に対して応援すべきではないかと思うわけでございます。そのマーケティングマインドということも、非常にある意味では十人十色で、まだまだ概念がはっきりしていないわけでございますが、いわゆる本当にお客様の目線で考えていって、そのお客様の目線で考えていったときに、今までの流通のあり方を含めて、全部、見直していこうじゃないかという発想を常に考えながら仕事をされている経営者でない限りは、私ははっきり言って、いくら技術面で応援してもどうにもならないというのが実は私の結論でございます。

 確かに、産学連携というのは、大学のシーズと企業のニーズをマッチングということで、物が売れる時代、物が足りない時代はそれでよかったわけでございます。物が足りないですから、とにかく大企業が製品をつくれば必ず消費者が買ってくれました。松下幸之助さんが水道哲学ということを言いました。蛇口を開けば水道の水、それを飲む消費者がいっぱいいたんですね。今はどうでしょうか。水道の水は皆さん、日本の消費者は飲みませんよね。エビアンだとか、もう外国の高い水を飲んでいますよね。もう、一つにはガスより水のほうが高いですね。そんな状況にあって、水道哲学みたいな発想ではだめじゃないかと。であれば、中小企業であったとしても、本当にマーケティングと。お客様の目線でお得意様探しをしていくという発想でやっていく以外は、私もはっきり言って生き残る道はないと思っております。
 そうはいいましても、日本の中小企業の場合は、多分、9割以上の企業の方が部品とか産業材しかつくっておられませんから、最終消費者と──さっき繊維の話がありましたけれども、最終消費者と面と向かって仕事をされる方は非常に少ないと思います。ただ、そうはいいましても、大手企業さんの先を見越して、最終消費者のことを考えながら、部品とか製品をつくっていくというやり方があるわけでございます。

 これも先ほどの松浦さんの話に戻りますけれども、彼が本で書いていますが、ソニーの担当者が、小型の例えばDVDかなんかをつくるときに、製品を発注してきましたと。そのときに、実はもう松浦さんは多分、こういう電化製品というものは小型化が進むということがわかっていましたので、実はその前に小さな歯車を用意していました。それを見せたので、ソニーの担当者に。ただ、これが笑い話でございまして、ソニーのほうは大慌てしました。なんかうちも、こういうプロジェクトの情報が漏れているんじゃないかということになったわけでございます。そんなことはないわけでございまして。松浦さんのようにある程度、時流がわかっていれば、大企業の先を読んで製品をつくるということができるわけでございます。

 そのことも含めて、決してみずからが直販をするかどうかは別として、やはり最終消費者の顔を見ながら、部品をつくっていくという発想の中小企業でない限りは、私は将来はないと思っています。

 よくテレビでも紹介されていますけれども、大企業からものすごくりっぱな技術を下請けを受けてやっている中小企業もいます。ただ、テレビのプロが行きますと、「社長、この技術は何に使われるか知っていますか」、「ごめん。知らないんだ。大企業も教えてくれないし」という言い方をするわけでございます。これではもうだめですね。多分、8割以上の中小企業でもそういうふうじゃないでしょうか。

 私はそういうことを考えますと、マーケティングマインドを持った中小企業をどうやってこれから育てていくか。ただ、残念ながら、私も1年3カ月、あそこのポストでマーケティング、マーケティングと言いまくってきました。ただ、日本の中小企業ってまだまだ、こう言ったら怒られますけれども、何とかの壁というか、ばかの壁というか、そういうのが強いですね。残念ながらはっきり言って、いろいろ新しい部長がマーケティングって言っているから、マーケティングということで少し、口では言います。ただ、本音は補助金、欲しいから、マーケティング、マーケティングということを言っているところも実はありまして、まだまだいいものだけつくれば、言われたものだけつくれば、物が売れるという発想が強いわけでございます。

[セールスレップと中小企業の関係]

 そうであれば、論より証拠じゃありませんけれども、手っとり早く、まず早く成果を出すためには、本当にできた製品を売っていただくプロということを、まず見つけていく必要があるんじゃないかと。そういう意味では、やっぱりセールスレップとか、マニュファクチャラーズ・レップというのは非常に重要だと思うわけでございます。
 ただ、気をつけなければいけないのは、どうしてもメーカーの社長さんがマーケティングマインドを持っていないと、セールスレップとかマニファクチャラーズ・レップの方はやっぱりケアして使う場合があるわけですね。場合によっては、本当に虎の子の製品は自分のところの営業でやって、そうでない、売れるかどうかわからないものを例えばレップの方にお願いしてやってもらって、結局、物がよくないものですから、なかなか成果が出ない。ということは結局、レップなんかだめじゃないかというふうに言われるかもしれません。

 ですから、そういう意味では、私、数少なくレップを使って成功されている企業さんに、東京にオーデンさんという企業がありまして、空気清浄機や何かをつくっておられるメーカーで、結構、そこの傘下のレップの方にもお会いしましたけれども、年齢が30歳、30代で、もともとは学生援護会というリクルート系の雑誌をつくっている会社におられて、全くメーカーの経験がないんですが、その方が今、年収3,000万、4,000万で頑張っておられると聞きました。ただ、そのとき非常に印象的だったのは、社長とそのレップの方の情報量が、営業に関してはほとんど同じだったということです。ですから、営業に関しては、こいつはおれの分身なんだという形で、週に1回、必ず徹底的なミーティングをすることによって、情報をシェアされていますので、そういう意味でうまくいっているのかなと思ったことがあります。

 果たして、日本のメーカーさんで、とりあえずレップ、多分、今、皆さん、物が売れなくて困っていらっしゃいますから、レップといったら、多分、飛びついてくると思うんです。しかも固定費はなく変動費用で、売れたら、そのフィーを払えばいいということですから、ある意味では非常にみそもくそもという言い方をしたらあれですが、そういう方たちも寄ってくるかもしれないというときに、果たしてどういう形でやったほうがいいのかというのは、若干、私も悩んでいるところでございます。本当にメーカーの社長さんが、このレップを本当に信じて、この人のやはりスキルを信じて一緒に営業について創造してやっていこう。営業戦略については、もう社内のだれよりもこいつに話にするんだという形でやらないと、なかなかやっぱりサクセスストーリーは出てこないんじゃないかなと思うわけでございます。

[セールスレップのイメージ]

 レップという言葉は、実は特に繊維の世界では10年ぐらい前から結構出ては消え、出ては消えという話でございまして、結局、失敗しているわけでございます。ですから、ある岐阜の繊維地域では、レップと言っちゃいますと、「何だ、レップか」と言っても、全然、皆さん、取り合わないというところがあるわけでございます。こういうことはひとり歩きいたしますし、結局、成功した話というのはなかなか膾炙しなくて、失敗した話ばっかりが大きく流布しますので、一つ間違えると、このレップという言葉も、何ていうか変な色がついてしまって、なかなかうまく進まないということもあるわけでございますから、そこら辺、どうやって考えていくかということもありますけれども、やっぱり私どもといたしましては、まずはっきり言って、レップをやっていただける方ということを、まず掘り起こしていかないと。私がレップということを1年3カ月前に関東局に来て、皆さんにお話ししたときは、メーカーはいないだろうと。行政も応援すると。だけどやってくれる人がいるんだろうかということでございました。  
 
 ただ、おかげさまで、きょう、小塩理事長を含めて、関係の方々にもご準備いただいて、こんなに多くの方たちがレップについて直接、関心を持っていただけるということで、休みの日をつぶして、こういう研修をされるということは、私からすれば、もう1年前からすれば、夢のような話でございます。ですから、こういう方たちが、ぜひとも本当に成長されていって。はっきり言いまして、アメリカではレップって、本当に花形商売ですよね。繊維の世界では、私が知っているカリスマおばさん姉妹がいて、年商10億、20億、稼ぐそうなんです。日本の場合、セールスパーソン。一時期、押し売りとセールスはお断りなんて看板がはやるぐらい、セールスパーソンの社会的地位は低いです。ただ、そうはいいましても、物が売れないのに、どうして物を売る人間をもっともっと評価しないんだと。大企業に至ったって、ほとんどがやはり営業の方というのは社内の地位は低いですよね。ですから、やっぱり物を売るという商売、しかもそれが独立系の商売になると、私は二重にこれから日本を、特に雇用を考えた場合、日本を救っていく実は本当にヒット商品になるんじゃないかと思っているわけでございます。

[団塊の世代への期待]

 雇用情勢を見ますと、最近、失業率も5%台というので、大体、高どまりしているわけでございますけれども、要は、これからはやはり、会社に雇われて生きていくというやり方よりは、独立した、いわゆる雇われない形で生きていくというやり方が私は主流になると思います。

  90年代のアメリカを通して、いわゆる独立コンサルタントという方が非常にふえました。この方たちが実はアメリカの雇用の受け皿になりました。なぜ、独立コンサルタントがふえたか。これは実は簡単な話でございます。大企業の方がスタッフをリストラします。となりますと、中堅、中小企業に行きます。そうなると、給料が下がります。なぜ下がるか。これは実は当たり前でございます。生産性ということを考えますと、大企業でやっているときには組織の歯車でございますから、その方たちは狭い範囲で生産性の高い仕事ができました。

 ただ、中堅、中小に行きますと、中小企業の方はスタッフが少ないわけでございます。ですから、自分の得意分野以外のこともやらなければいけない。そうなりますと、生産性が下がります。ですから、それに見合った給料になってしまう。それじゃあ、おもしろくない。だったら、自分はもっともっと自分の限られたエクスパティーズを生かしていきたいということで独立されて。例えば、営業なら営業の仕事だけをやりたいということで独立されて、1社だけじゃなくて複数社からそういう営業の仕事をもらうことによって、それでご自身も満足し、収入も上がっていくという形になってきているわけでございます。

  ですから、私も、もう今後、景気が回復しても、なかなか雇用がふえていかない。いわゆるジョブレス・グロースの世界に日本も残念ながら入ったわけでございます。そうであれば、大企業とか中堅、中小企業で余りご自身が納得できない形で仕事をされるぐらいだったら、確かにリスクは多いわけでございます。ただ、自分が納得できる形で仕事をされて、しかも自分の腕に見合った形でフィーが得られるような仕事をぜひぜひ考えていただきたいと思ってございます。  きょう、出席の方のリストをさっきちらっと見させていただきましたけれども、私の予想したとおり、やはり50代の方たちが非常に多いわけでございます。私ははっきり言って、日本型レップということを最初に導入する場合には、やはり50代ぐらいの方たちから上じゃないと、うまくいかないと思っております。理由は二つ、ございます。

  一つは、やはり日本経済、高度成長を通じて今の、私、43ですが、30代、40代、場によっては20代の人というのは、もう本当に組織の歯車ですから、一気通貫でなかなか仕事を見る方は非常に少ないわけでございます。例外はございますけれども、非常に経済が大きくなった後、歯車の仕事をされているわけでございますから、一気通貫で例えばその業界とかいうことを知っている方が非常に減ってきているわけでございます。それに対してまして、やはり50代、60代の方というのは、ある意味では日本経済の成長とともに大きくなられた方がいらっしゃるわけでございますから、そういう方たちが過去のネットワーク、経験を通じて、視野の広い観点で営業全体を見ていただくということができるのではないかというのが、まず一つ目の理由でございます。

  それから、二つ目は、結構、これは実は深刻な問題だと思いますが、やはりレップというのは、うまくいけば花形商売になりますが、はっきり言いますと所属部署のない世界でございます。物が売れなければフィーが入ってこないということになります。そうなりますと、30代、40代、ローンを抱え、しかも、まだ子供が小さいという方に対して、なかなか飛び込んでくれといっても難しいわけでございます。

  それに対しまして、50代、60代の方、ある意味では勝ち逃げ世代なんていう言い方もされていますけれども、年金はたんと入ります。退職金ももらえます。それを例えば固定給にして、1年、2年ぐらいはなかなかうまくいかなくても、自分の生きがいのためにある程度、仕事ができるという経済的余裕なくしては、なかなかこれもうまくいかないということを考えますと、年金とかそういう退職金を固定給にし、一方でそのお駄賃として、自分の腕を生かしていく。  さらには、特に団塊の世代の方というのは、私の理解では、私の世代はしらけ世代と言われていたものですから、うらやましいぐらい、社会的連帯があるんですね。しかもこれ、社会とのかかわりということを考えながら言っていらっしゃる方が非常に多いわけでございますから、そういう社会とのかかわりを常に持っていきたい。ただ単に、これ、NPOと言ったら怒られますけれども、NPOはもちろん、重要です。ただ、自分のやはり腕に見合ったお駄賃が返ってくるという仕事があってもいいんじゃないかと。そうやって、もっともっと積極的に社会に貢献していきたい。

  さらには、このリストにも書いてございますけれども、日本の経済の主である中小企業を救いたいんだということも考えた場合、そういうことを考えますと、やはり、そういう方たちから新しい仕事の仕方というものをつくっていただきたいと思うわけでございます。

  団塊の世代とか50代の方、私、非常に悔しくてしょうがないのですが、常に戦後、日本の進路を決めてこられました。学生紛争もされました。それで、家庭の中での父親の権威をぶち壊したのも、多分、団塊の世代だと私は思っております。いろいろなやはりある意味では、いいかどうかは別として、世の中のトレンドをつくってこられました。しかも会社人間で一番頑張った方も、そういう方もいらっしゃいます。これからは、21世紀はやはり工業社会、その中でも成熟化した工業社会になるわけでございます。やはり、日本人は戦後の焼け野原に比べたら、ものすごくここの人たちが優秀になったと思います。優秀になったのに、まだまだシステムが50年前と同じだから、なかなかうまくいかないんじゃないかと。極端な話、子供がものすごい勢いで成長したのに、いまだに5歳のときのやはりショートパンツを着ていると苦しくてしょうがないですね。そんなことは中国の人にやらせればいいわけですから。

[セールスレップ研修をうける方々へ]

 もっともっと豊かになれば、本当に営業。営業とかマーケティングというのは、アメリカでは心理学だと言いますよね。人と人とのつき合いじゃないですか。僕ははっきり言って、アメリカより日本のほうが、いわゆる大和言葉で言えば、おもてなしの心って上だと思うんですね。確かにマニュアルということで、ある一定のレベルまでは彼らはできます。マクドナルド、それからディズニーランド。残念ながら、マクドナルドはアルバイトよりも、日本の商店街の店主の、態度がなってないなんてことも聞こえてくるわけでございますが。日本の場合は名人芸というか、俗人的にうまくいくもんですから、マニュアルをケアするところがあるんですが。当然、マニュアルは学ぶにしても、その先の個々人の才覚でおもてなしをするというか、マーケティングというか、営業スキルなんて、多分、アメリカ以上に私はできると思っているんです。ですから、そういう日本型の営業のあり方、レップでもいいと思います。そういうところで、やはりもっともっと、おもてなしをすることによって、日本でもっと明るくなっていこうと思うわけでございます。短期的な数字を扱うなんて、私、必要ないと思います。

  今でも通産省は、物づくりという言葉が必須です。でも、私はよく、物づくりという時代は終わりだと思っているんです。この物づくりというのは、私の独断と偏見では、やっぱりプロダクト・アウトなんです。物をつくるとき、また違うんですよ。やはり、中小企業なり企業の方であれば、やはり商売づくり、まず商売づくりを考えてもらいたい。武士は食わねど高楊枝っていうわけにはいかないと思うんです。やはり、もし本当につくったのだったら、ちゃんとキャッシュフローを生んでくださいと。ゴーイング・コンサーンとしてお客様、お得意様のために継続して生きていけるだけの、やはり仕事の仕方を考えてください。

  私はその先、もう一つ、あると思いますのは、やっぱり幸せづくりだと思っています。物づくり、商売づくり、幸せづくり。物をつくってもいいです。サービスもいいです。それによって、やっぱり限られた範囲でいいから、お客様、お得意様がやっぱり幸せになってもらおうと。それぐらいの気持ちでやはり仕事をしていただけないと、これだけ世界一高い人件費の日本国民に。人件費が世界一高いということは、世界一優秀という証拠だと思いますから、世界一優秀な国民は、やはり幸せづくりということを考えて。よく提案型営業とかソリューションとか何でもいいと思います。私は幸せづくりを考えたときに、やはりおもてなしの心、それから手に届く範囲で、非常に気のきいたサービスができるというのは、多分、日本人の特徴だと思います。残念ながら、とんでもなくでかい、軍隊組織を動かすとか、そういうのは余り日本って得意ではないと思います。ただ、手の届く範囲内でおもてなしの心をやっていくという仕事の仕方というのは、私、日本人は非常に向いていると思います。その中にあって、そんな会社をいちいち大きくする必要なんかないと。ただ、自分がコントロールできる範囲内で、自分の満足する仕事、相手も満足していただくような仕事ということをこれからつくっていくというのは、多分、日本経済にとって必須だと私は思っております。

  そういう意味で、最後、非常に大風呂敷になったわけでございますが、このような大きなコンテクストの中にあって、まず初めの一歩ということで、レップ、まず物を売るプロ。物を売るって、一体何ぼなんですか。ドラッカーも言っていますけれども、いくらその会社の製品が得意わざが四角だとしても、お客様が三角だったら三角にしなきゃいけないよねという、いわゆるマーケティングの法則がありますが、そのように私、さらに高次元のプロダクト・アウトになると思います。ただ単にお客様が言われたことをそのままつくればいいということではなくて。お客様が自分で欲しいものというのは、大体20%しかわからないということを言っていますよね。80%は消費者がわかっていないんです。その80%の暗黙知の世界を取り出していって、物をつくっていく。セールスレップでは多分、私はただ単に物を売るだけではなくて、ある一定のお得意様の本当の無意識にある層の部分を引き出してきて、それをやっぱり生産現場にフィードバックして、より高次元のいわゆるプロダクト・アウトを完成するために、非常に必要なアンテナ機能を私は持っていると思います。

  そういう意味で、やや少し思い先行で、話がまとまりませんでしたけれども、一応、所定の時間ということになりましたので、少し早いですが、ここで切らさせていただいて、その後、20分ぐらい、質疑のお時間があるということでございますから、皆様とお話しする中にあって、ぜひとも、こういう日本型セールスレップというものを。私としてはこの立場から言えば、内閣官房におりますので、ある意味では一番、役人の中ではパブリシティというか、そういうのを含めて政権中枢に対して、いろいろプッシュができる立場にあるわけでございますから、そういう面で応用することによって、まずレップという仕事があるんですよと。まず、世の中に認知をさせるところから始めていって、まずはやっぱり皆様のような、本当に志を持った方たちがもっともっとふえてきて、それによってレップというのが日本では当たり前のビジネスになると。それから将来、近い将来、花形ビジネスになるような形になることを祈念いたしまして、とりあえず私のお話にかえさせていただきます。

  どうもご清聴、ありがとうございました。

(了)


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